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もっともっと産業医はどうしたらよかったのか 産業医のトリセツを作りたい その6

これまでの話


休職・復職に臨む休職者の不満から、
産業医にもっとしてもらいたかったと思うこと、について書いてきました。

まず、回復の全体像、
休職者がこれからどんなことに取り組んだら復職となるのか、
復職しても病状悪化を繰り返さないであろうと捉えてもらえるようになるのか、
そんな、休職者に必要なことを探るための話し合いをして、
回復とその後の経過への長期的な展望を共有することを行い、

次に、
保健師や人事労務スタッフなど味方を増やそうとする。

もう一つ、産業医にやってほしかったこと


もう一つ、産業医が意識してやってほしかった、
そう思うこと。

それは、
復職できる状態になるために、
どのように主治医を利用するかを、休職者といっしょに考えようとすること。

ただし、主治医は休職者の味方であっても、
休職者の望む回復の行き先は本人の口からの希望としてしか知らず、
会社の復職制度や、その後の就労環境などについては知らない。
知りようがない。

だから、主治医に十分に力を発揮してもらうには、
会社として復職の条件をどのように考えているのか、
休職者本人の病状についてどんなことを懸念しているのか、
といった情報を提供していく必要がある。

産業医または会社から、主治医に対して、
会社の復職制度のことなどを説明し、
会社として知りたいこと、の形で会社から復職とその後の回復のために求めていることが伝わるような報提供書を書く。
それはまずやっていく。

そしてそれと同時に、
患者である休職者本人に、
「主治医をどう利用したらいいのか」「医療の利用の仕方」について、
「主治医との治療場面でのシナリオ作り」を支援する。

「主治医の利用の仕方」って、まるで、、、


「主治医の利用の仕方」というと、
まるで”医療を自分の都合の良いように捻じ曲げてりようすること”
のように聞こえてしまうかもしれないけれど、
もちろん言いたいのはそういうことではない。

患者さんである休職者は、弱っている。
弱っていると、
ともすれば「私は無力な人、助けてもらう人」といったポジションに身を置いて考えてしまいやすい。

ある側面では援助希求力であり、それが自らを助けることにつながるところもあるだろうけれど、
しばしば受け身な態度につながってしまうことがある。

そして、受け身を主体とした行動パターンは、
復職し、その後も病状を繰り返さない、という望ましい回復のためには、
足を引っ張るものになってしまう。

そこから脱するためには、
周りの制度や人物を自分のサバイバルのためにどう利用するか、
これだけ切り取ると誤解を招くまもしれませんが
「なんだって利用できるものは利用する」
「ご利用は正しく」
そういった視点を持つタフネスを持つこと、
主体的に利用していくつもりになること、
それが良いんじゃないか、必要なんじゃないか。
そう思うのです。

どうやって「利用する」のか


具体的には、
主治医とは長期的視点について、どんなことを話し合っているのか。
会社が求めている回復像に向かっていくために、主治医との治療にはどんなことを求めていくのか、など、
主治医との治療場面を教えてもらいながら、
まだ整理がついていないことについて問いかけて課題として持ってもらう。
そういった、
「主治医との治療場面でのシナリオ作り」を休職者と一緒にしていく。

言い方を変えると、休職者に、
主治医から見たときに、
単に”ちょこっと生活の様子きいて薬出して、診断書出して”という
「都合の良い患者」から、
”まともに生活面や適応の向上について一緒に考えなくてはならない”、
「取り組み甲斐のある患者」になってもらう。
そんな「良い患者さんになるための支援」。

まとめてみる


産業医にしてほしかったことについて
回復とその後の経過への長期的な展望を共有すること
・保健師や人事労務スタッフなど味方を増やそうとすること
・主治医との治療場面でのシナリオ作り
と書いてきた。

これらを行ったら、「復職条件を杓子定規に伝えられるだけだった」という休職者の不満はどうなるだろう。

もちろん、復職には至らないかもしれない。
でも、その結論に至るまでに複数のメンバーから複数の視点での援助や介入がなされ、
「寄ってたかって良くなってもらう」体制が取られ、
休職者自身のセルフケア力も高まっていくはず。

もし結果的に復職に至らなかったとしても、
「産業医は自分のためによくやってくれた」
「結果として復職するまでに至らなかったのは残念だが仕方がない」
と思えるようになってもらえたら、
復職させる、というミッションの点では失敗でも、
従業員の力になる、というミッションとしては成功できたのではないかと思うのです。

とまあそんな、産業医のトリセツ、
とまでは行かなかったかもしれませんが、
復職を希望する休職者との面接の中で、
精神科産業医として私が心がけている面接の内容
逆に言うと、
休職者が産業医に求めてほしいこと、
そんな風に産業医を利用してもらいたい、と思うことでした。

ちょっと釣りタイトルになってしまったかな?

この項ここまで。